プゼーとの約束

プゼーは象のかたちをした蝶あるいは蝶のかたちをした象 このところとんとみかけないが こどものころはいつもふたりで遊んだものだ プゼーはうたが好きだった 学校で習ううたとはまるでちがっていて 母音だけのうたで おまけに円環...

クルアの祈祷

未調査の森に入り コラールという機器の設置場所を探して歩く 湿度など適当な場所が見つかったら 機器を下ろし 十二本の避雷針のような細い金属棒を取り出し 注意深く 直径二メートルほどの円周上に刺していく そして金属棒と機器...

神々の黄昏

とある町にさしかかったとき 籠目にすっかりとらえられてしまったような 妙な胸騒ぎに襲われる それは切れかかった雲にも 朽ちかけた柱にも似ていた ギュスターブの森を抜けたとき ふと月が翳り そこにたよりない町の影がにじんで...

砂漠の歌祭文

どこかで口笛を聞いたような気がして目を覚ますと そこは砂漠のなかの遺跡で 青白い月が掛かっていた ゆっくり立ち上がり砂を払うと 遺跡の朽ちかけた柱の影で青いターバンを巻いた男が 古いギターの調弦をしていた 影をなぞるとト...

椋鳥の群れ

ある秋の夕暮れのこと 町に散歩に出掛ける 六丁目の交差点に差し掛かったとき 背後で警笛が鳴り 鉄狼のような路面電車が鼻息荒くすぎていった 八百屋では切れかかった裸電球の下でお得意さんに玉葱を手渡しているところで 暮れかか...

冬の蝶

ある夜半すぎのこと 干涸びた背中だけになってしまった亡霊が書斎の椅子に座り 半開きの窓から入る風に撫でられながら 歪な爪を立て 緑暗色の書物の頁に見入っている ふと雲の切れ間から射す月光がよぎったとき 埃で曇った硝子に古...