◎かつてギリシアの記憶術では、胸の内の架構建築ロクスに記憶をはりつけていた。それが外化して神殿や彫刻となり、文化を統べる柱となっていく。日本の里や都に見られる数々の人為的造形もロクスの外化で、里と都のちがいもロクスの類型の差と見ることができる。おそらくは縄文土器も密なるロクスだろう。縄文人が暮らしていたサトもまたロクスそのもので、そこで祭祀が行われ、葬儀が行われ、暮らしが営まれ、ゴミが捨てられた。弥生土器がのっぺりとしているのも、大陸からやってきたロクスのちがいだろう。そして縄文ロクスがおいやられていく。人はいまもロクスのなかで暮らしている。人としての記憶を持つかぎり、人は人のロクスの外に出ることはできない。それをひそかにロクス(記憶の庭)と呼んでいる。ロクス(記憶の庭)の視点から時代の筋を呼んでみるとよい。