無辺の浄土に 六枚の花弁をもつ一輪の花が咲く アルカシヤの花は小さく小指の先ほどしかない いまにも降り出しそうな空の下で風に揺れている その根には多様な菌が集まっていて 土という存在の在処をただ黙々と紡いでいる 根から菌へ 菌から菌へと運ばれるその小さな手紙は伝文があるわけでも 目的があるわけでもなく ただ一欠片の記憶を光らせている アルカシヤの根は花の器官でもあり 虫の器官でもあり 土の器官でもあり そのたよりなげな根は夜に紛れるように 土に紛れるように 呼吸するように 旅するようにのびていく 別にのびたいわけではない ただ器官としてそこに在るだけのことだ 根はのびもすれば 腐りもすれば 土竜や蚯蚓に食べられたりもする 腐った根は菌たちのご馳走になったり 土になったりもする 土竜や蚯蚓に食べられた根は分解され 土竜や蚯蚓のなかの根となったりもする こうして根は ここかしこで生まれたり 育ったり 腐ったりしながらも 相も変わらずひろがっていく 時折 あちらからやってきた根と会うこともある どこかの花や 草や 木の根であることもあるが 根と根が一旦結ばれれば もうそこに区別はない それははてしのない祝祭だ 祝祭がはじまって もう三十五億年ほどになろうか そろそろ根も此の星の隅々に行き渡り たったひとつの浄土となっている 浄土はいまも生まれつづけ いまも死につづけ ただ祝祭の旋律に耳を傾けながら ただ此処に在る