廃墟の夢

かつて夢は未来の記憶であったが ここでは森に呑まれてしまった廃墟の底に横たわる屍体でしかない 月が昇り 風がひとつ吹くたびに思い出も剥がれ 夜の分子に紛れていく ふいに分子の隙間から子守唄のような調べが流れたが もはやそれを聞くものも存在しない ただ分子ばかりが揺籠のようにゆれ 世界の淵を攪拌する 時から解放された夢は苔を伝う雫のように地に浸みこみ 世界を巡り やがて月になり 風になり 夜になり 無のなかへ消えていく ただ春のあたたかさだけが 廃墟をつつんでいた