世界測量士

このところ どうも世界各点の歪みがひろがっている ここ十万年分の観測記録をあたってみたが このような歪みはどこにも見当たらなかった 測量機器の故障もあるかとひとつひとつ調べてみたが何の異常も見つからない いったいいつから世界測量士をやっているのか とうに忘れてしまったが このような歪みにはとんと覚えがなかった まるで世界が意志をもって挙動しているようだった まるでこれまでの測量がすべて白紙に戻されるような ちろちろとした不安に襲われる はじめは西の遠望台からだった 粒子がひとつ弾けたかと思うと 弾ける粒子が瞬く間に連鎖し 世界をそのまま入れ換えるように 裏返りはじめた 物質という物質が裏返り 時間も空間も裏返り この世界のすべてが裏返るまで たった一万年しかかからなかった 測量機器も測量もすっかり裏返ってしまったわけだが なんとか無事測量はつづけられそうだった いったい測量や記録に何の意味があるのか それはさっぱりわからない 生まれながらにして測量士であっただけのことだ ただいまは はたして測量しているのか はたまた測量されているのか それは定かではない はたして記録しているのか はたまた記録されているのか それも定かではない ただできることは 世界光を浴びながら 測地線の祀りでアリアを歌うことだけだった