ある寒い冬の夜 どこからかウタがやってきて あまりの寒さに思わず土にもぐりこんだ 土のなかも十分あたたかいとはいえなかったが 春のウタでからだを震わせ 寒さを紛らわせた 土のなかはさまざまな虫の幼虫や 種や 蚯蚓や 菌で犇いていて たいそう賑やかだった ここが荒野であることが不思議なほどだった ある夜 誰にも知られないあたたかな雨が降った ウタが春のようにからだを震わせると 幼虫や 種や 蚯蚓や 菌が目をさました そして欠伸をひとつすると むくむくとうごきだした はじめそれはぶるっとするほどのかすかなうごきであったが やがて荒野ぜんたいがむくむくと動きはじめた ウタはつづいていた そして千の季節のすぎるころ そこは小さな森になっていた 蚯蚓や枯葉が土に養分をもたらし 木が葉をひろげ実をつけるころになると どこからか鳥や 虫や けものたちが集まってきた ウタはつづき 森はたいそう大きくなっていった そばに里ができ やがて猟師が森にやってくるようになった 猟師たちは必要なだけの獲物をとると祭りを行い 恵みに感謝し 祈りを捧げた また千の季節がすぎる ウタはつづき 森は変わらなかったが 里は荒廃し やがて森が開拓され 住宅が立ち並び 道がそこかしこに走るようになった そして住宅から吐きだされる廃棄物が散らばり 処分場がつくられた また千の季節のすぎるころ 森をおさめていた狼のホロが錆びた罠にかかって死んでしまった 一雫の泪を残して ウタは止んだ するとみるみるうちに森は枯れていき 土に還っていった そして流行り病がひろまったかと思うと 消毒液の匂いを残して 住宅も土に還っていった ウタはゆっくり地表に顔を出し 春の風の吹くのを待っていた