ペンネは詞を話さなかった 舌をもってはいたがそれを詞のためにつかうのは億劫にすぎた ペンネの様子は その出立も振る舞いも 他のものたちとはまるで違っていた なぜ他のものたちと様子が違うのか それはペンネにもわからなかった なにしろペンネにはここ百年の記憶しかなかった それ以前のことは まるで窺い知る由もなかった ペンネには星から星へ渡る能力があった 夜空の星に狙いをさだめ じっと星を瞼の裏で思い浮かべて念ずると その星へ赴くことができた 目を開けるとまた此の星へ戻る それを見たものはやんやの喝采をする どうやら星から星へと渡っているさまが はっきりと見えるらしい でもペンネにとっては夢と変わりなかった あるときペンネは此の星に戻るとき 目を開けずに此の星を思い浮かべた すると此の星に戻ったのだが いつものような歓声はなく 静まりかえっていた あたりを見回すが誰のすがたもなかった 誰かを呼ぼうとするが 詞はついに出ない そこで目を開けようとするが 目はすでに開けられたままだった 此の星はいったいどの星なのだろうか 迷子になってしまったのだろうか 夜空を見上げるが 夜空に星はひとつもなかった ただ 玄い夜が百億年前からじっと蹲っているばかりだった