ある夕のこと 山猫のポムセが森を見回っていると 一頭の山羊をつれたひとりの男が森を歩いていた そうか もう祭りがやってくるのだな 今年はあの山羊が選ばれたというわけか 山猫は嘆息まじりに呟きながら 男の後をそっとついていった 池にさしかかったとき 男は池の畔に佇み 山羊に水を飲ませた 山羊は水をがぶがぶと飲み 一声啼いた 男は水を飲む山羊の脇に座り 池の水面を見つめながら山羊に何かを語りかけていた 男はふいに空を仰ぎ 叫び声をあげた 男はびっくりして逃げ出しそうになった山羊の綱を引き ゆっくりあたまを撫でた そして山羊に何かを語りかけながら 山羊の綱を解いた 山羊はきょとんとして男を見つめた そして杖を振り上げる男を見て 一目散に逃げ出し 森の奥へ消えていった 池の水面で魚が一匹跳ねた 男はため息をひとつ落とし 服のポケットに石を詰めはじめた そして男はよろよろと池の方へ歩き 倒れこむようにしながら 池に飛びこんだ そのまま 男は浮かんで来なかった 山猫はふんと鼻をならし もと来た道をゆっくり戻っていった もう日は沈みかけていた