花屋の前を通りかかると剥き出しの無が陳列されていて 愛おしい思い出が 骨の折れた小さな傘と一緒に売られていて 遠くからやってくる雲を眺め あてどのない存在の紙片を 雲のその奥へ埋め 燃え尽きる存在の影を 寄木細工の箱に詰めると ふいにやってくる黄昏が 町の一切を溶かし 紙屑のように畳まれた夜を拾って広げると 流れ星がひとつ 天を横切り 悠久の時の終わりを告げるかのように その軌跡から秘密の文字が溢れ落ちるころ あなたは目を覚まし 石ころのような内臓をからからと鳴らしながら坂道を登り 歴史のように折れ曲がった木の枝に掛けられた将来を纏い 七角形のワルツを踏みながら 天へ昇ると 忘れられた存在が 夜の海で溺れ 魚の粒子がほどけ そのまま無になって 龍眼をもつ蟋蟀が跳ねる