とある町にさしかかったとき 籠目にすっかりとらえられてしまったような 妙な胸騒ぎに襲われる それは切れかかった雲にも 朽ちかけた柱にも似ていた ギュスターブの森を抜けたとき ふと月が翳り そこにたよりない町の影がにじんでいた 誰かに呼びとめられたような気がして後を振り返ったが 森のすがたはかき消えていた まるで折り紙のなかを歩いているようだった 足の感触もぺらぺらであったし うっかり壁に寄り掛かろうものなら そのままくしゃりと町が倒れてしまいそうだった 路地になにやらぼんやり光るものがある 足をとめて見ると折り紙でできた歯車風の花のようで 通りすぎようとすると アネモイ と声がする 思わず足をとめると風が吹きかかり その花は風に運ばれていってしまった しばらく歩いていくと 高い塀の上に立つ猫のような折り紙がこちらを見下ろしていた 通りすぎようとすると バステト という声がして 猫の折り紙はひょいと塀の向こうに消えてしまった 雲間からふいに月の光が射したとき 鏡を持ったもののすがたが辻に浮かびあがったが はたしてそれも折り紙であった 辻にさしかかったとき 月が雲に隠れ ツクヨミ という声を残してそれは忽然と消えてしまった 足元がたよりなく なんどもつんのめって倒れそうになる いったいこのたよりなさはなんだ これが存在のたよりなさというものか こどもっぽい乾いた笑いが肺の奥からこみあげてくる いろいろなつくられた思い出が浮かびあがりかけたとき びゅん と大風がやってきてそのまま巻き取られてしまった 気がつくと ギュスターブの森の入り口で 森に入ろうかどうか 上着の埃をはらいながら逡巡しているところだった どこからかわらべうたが聞こえてくる